【OBSERVER】













序章2




親友が俺に夢の話をする。

大抵が同じ夢の話。

その内容はとても曖昧

はっきりしているのは

『俺が傍観者で、お前の死を見つめて茫然と立ち尽くしてる。』

お前ってのは俺の事だ。

こいつは最近ちょっと欝っぽい。
バイトも辞めたいとか、彼女とも別れたとか言ってたし。
今迄馬鹿がつくほど真面目なやつだった。

こいつとは小学生の頃からの腐れ縁で、成績優秀、遅刻もしないし(スポーツは駄目なフリしてたけど本当は運動神経も良い)とにかく制服の第一ボタンまでしめるような奴だ。
放浪癖のある両親からよくもまぁこんな秀才が生まれたもんだと幼いながらに思ってたくらいに。

俺だけが知っているこいつの性格もある。

こいつは腹黒い。
大抵の悪事はこいつに教わった。

21歳になった今でもだらだらと近くにいる理由は、こいつが俺を一番わかってくれるてるから。
俺がどう思われてるか知らないけど、俺はこいつを親友だと思ってるし、人生の師匠だと思うくらい尊敬もしてた。


けど今こいつは胡散臭い詩集とか読んでるし。
何に対してもやる気0でうんざりしてきた。


そこで俺が死ぬ夢をみるなどと言いやがる。

俺はお前に何かしたか?

気に障る事でも言ったのか?
何故そこまで俺が気を使わなくちゃならないんだ
こいつは今ナイーブになってるんだとか自分に言い聞かせてやり過ごしてきた。

けど夢の話をしだしてからもう一年。

何か企んでやがんのか

いい加減怖くなってきた。

いつかこいつに殺されるんぢゃないかって怯えている自分にふと気付く。

笑顔が引きつってないか、こいつの顔色うかがう事も、どうやら俺は自然にやっていたらしい。

こいつが夢の話をする時の無感情な目が、背筋を寒くさせる。

まるで刄の切っ先を、眉間に突き立てられている様で

もう俺にはこいつが何考えてんのか理解不能で、怖ぇし面倒だしで





逃げ出した。





序章3




音信不通。


実家は此処から2駅だし帰っても意味が無い。
だから一人暮らしの部屋を出て、あいつの知らない友人の家にやっかいになる。

バイト先もかえて、むしろ今の方が恐怖心が増してしまったのは人間的心理。

見えないものは怖い。

まぁ、同じ世界に生きてるんだから会わない可能性は0ぢゃあ無い。

つうか前の家からそんな離れてないし、此処から実家へは車で一時間程度だし

何だ俺

ここまでしといて、何て無計画…。

海外逃亡とか、考えてみたけど

意味がわかんねぇ。

行動力が無いから頭の中でいつでも海外逃亡。


とにかく俺は、あいつから離れたかっただけなんだ。

今は居候の身だし、肩身も狭いし、眠りも浅い。

プチ逃亡(近場で音信不通の事を俺はプチ逃亡と呼ぶ事にした)を始めてから約一ヵ月。

新しい職場も慣れてきたし、久しぶりに実家に電話してみたけど、特にあいつが俺を探してたとか無かったみたいだった。

拍子抜けしたものの、それがかえって恐怖心を煽るし、親友のくせに何故探しもしないのか

俺はお前のせいで四六時中恐くて、四六時中お前の事考えてるのに


勘違い片思いの女子中学生かよ俺は…

腹が立ってきた。

何で逃げたいのかわからなくなってきた。

かといって帰りたくないし

冷静になって考えてみた

あいつが一年間同じ夢の話を聞かせたのは、奴が本当に病気だったからかもしれない。

欝っぽいんじゃなくて欝で、後向きな事しか考えられなかったんじゃないのか

わけのわかんねぇ詩集のタイトルは確か『死と目覚め』。

あいつが読んで聞かせた詩の内容は人間は監視されてるだとか、とにかく負のイメージが強いものだった。




別にあいつが俺を殺すと言ったわけじゃない。


聞かなかった。

聞けなかった。

聞きたくなかった。


本当は俺の事うざかったとか、言われたくなかった。

俺にまで皮かぶってたとか思いたくなかった。


これじゃあ本当に勘違い片思いの女子中学生だ。




俺が病気なのかもしれない。












その晩、夢をみた。




『俺が傍観者で、あいつが俺の死を見つめて茫然と立ち尽くしてる。』














序章4




俺が見た夢は、あいつが話す曖昧なものとは違って鮮明だった。



真っ昼間みたいに明るいはずなのに目を瞑った感覚。

長い時間光を見続けた残像のようなもので、俺とあいつが浮き上がって見えた。

目を閉じて、目蓋の裏側に写る残像。





俺は見た。

あいつが笑いながら俺を殺す瞬間を…

何かを企んでいるような笑みじゃない。



慈悲た笑みだ。









鮮明で曖昧な俺の死。



あいつが右手の人差し指で俺の額を小突いた。



そのまま後ろに倒れる。



額から血が溢れて

あいつの足元まで血の海が広がる

そこで俺は、俺を見ている事に気付く。

あいつは茫然と立ち尽くしてるように思えたが、目だけでこっちを見てた。



横目で見て又嫌な笑みを浮かべてやがる。



立ち尽くしてんのは俺だ。



血塗れの俺

その倒れたままの俺すらも笑ってるように見えた。



理解出来ずに茫然と立ち尽くす。





『─――――。』



あいつが何か叫ぶが、俺には聞き取れず

聞き返す事も出来ずに目が覚めた。









なんて寝覚めの悪い朝だ。

まさかと思い辺りを見回すと、ここ一ヵ月やっかいになってる部屋で、安直の溜息が出た。

友人はもう仕事に行ったようで、いつものようにテーブルの上には部屋の鍵が置いてある。

冷蔵庫を開けたら案の定水と、飲みかけの缶ビールしか入ってなかった。

近くのコンビニまで徒歩5分。

朝飯の調達に行こうと、寝間着の上からパーカーを羽織って財布を掴んだところで止めた。

極力外に出たくない。

もしもあいつに会ったらどうすれば良い?

もしもあいつが夢のままの笑みを浮かべたらどうすれば良い?

もう俺が病気でも良い。

あいつに会う可能性っていうのを全部回避したいんだ。



テーブルの上に目をやると、鍵の横に友人の忘れ物らしき煙草とライターを見つけた。

空腹よりもこの気持ち悪さを紛らわす為に、久しぶりに吸ってみる。

二十歳になった時から、禁煙して一年と少し。

あいつが「二十歳になったら止める」と言って本当にやってのけて、何か格好良くて俺も真似して止めていた。

一年ぶりの煙草は俺を満たしてはくれず、何度か咳き込み、眩暈がする。



一年前あいつが夢の話をし出した当時を思い出して、苦しくなった。








序章5



煙草をくわえながら時計を見る。
此処の主人は秒針の動く音で眠れないからと言って、折角俺が買ってきた目覚ましにキレてぶん投げてみせた。
だから時計といっても携帯のやつだ。

今日は11時からバイト。近所の中古CD屋。

オーナーは元バンドマンで、何でもかんでも『フィーリングが大事だ』とか言う典型的音楽ヲタク。

今日は休みたい。

電話越しに咳きでもして、気分が悪い、熱があると言って休もうか。

考えながら、着替え出した。



逃げ出したといっても、それは駄々をこねた子供がするようなもので

本当の逃避など出来ない。

度胸もない。

今となってはもうこれは意地だ。

何もかも捨てて、一文無しで人生やりなおすなんて事出来やしない。

そんな大袈裟な事をする理由など無いのだから。

ただの突発的な行動で、帰りたいのは山々だけど恥をかきたくない。

中途半端なプライドが、もう何でも良いから逃げろと言う。

何でも良いからあいつから逃げれば良い。



逃げたいはずなのに、又外に出ようとしてる。

矛盾してるのはわかってる。

外に出たくない

でも働かなきゃ暮らしていけない。

何のせいだ
誰のせいだ
あいつのせいだ

あいつのせいで、俺はこのちっぽけな逃避を始めてしまった。

何もかもあいつのせいにしてしまえばいい。





重い腰を上げて部屋を出る。

この部屋の玄関はレトロなトイレかバスルームみたいな白と黒のタイルで、友人は絶対これだけで部屋を選んだのだろう。

趣味が悪い。

こんなどうでもいい事に、頭の中の話題を切り替えて、思考を通常に戻してドアを開けた。











聞き飽きた筈のCDを、聴き続ける。
店内に垂れ流しのそれは、ひどく俺を憂欝にさせた。

何度か変えてみたけどしっくりこなくて、やっぱり同じものばかり流し続ける。

仕事中、本当に気分が悪くなって吐き気が治まらない。

昨晩の夢の続きみたいだ。

昔のL.Aメタルに浸りながら、頭痛までしてきた。


カウンターの下に置いた鞄の中で、携帯が鳴り続けてる。

サイレントだから気付かなかったけど、チカチカと光が点滅するのが視界に入った。


途切れては又点滅する。



それは非通知で、何度も何度も。







序章6



頭痛に耐えながら、かすかに浮かび上がる風景を思い出す。
高校時代、あいつの部屋でよく聴いた歌が、垂れ流しの曲と重なってあの頃と繋がる。



天井迄積み上げられたCDラック。まるでCDで出来た壁みたいだ。

何をする時も音楽を聴いていたから、よく聴くCDだけはコンポの上に無造作に積まれていた。

いつでもその一番上には同じCD。それを手に取って微笑む。

「俺のテーマソング」

正直こうも毎日聴かされれば飽きる。
「又モトリークルー?たまにはリンキンとかにしろよ」

呆れた。お前古いんだよ。と顔に出してみる。
けど伝わらなかったみたいだった。
「だっからこれは俺のテーマソングだって言ってんだろ」
俺のテーマソングはリンキンなんだよ!
とは言わずに、その日はひたすら聴かされた。
しかもCD一枚じゃなくて、その中の一曲だけ。

Shout at the devil

ヘヴィーローテーション


ついこないだ、(まあ此処に逃げてくる前だけど)あいつの携帯の着信音がそれだった事を覚えてる。

非通知の相手はきっとあいつだ。

新しい携帯の番号は此処のオーナーと、居候先の友人にしか教えてない。親にも教えてないのに、わかる筈は無い。
けれど本能的にあいつだと確信出来る。
電話が繋がらなければすぐに諦める俺とは違って、あいつは繋がる迄ずっとかけてくるタイプだ。
普段はさばさばしていても、感情的になればなる程あいつはしつこい。

頭痛はひどくなるばかり。垂れ流しのBGMを止めてから、又鳴り始めた携帯を手に取る。
通話のボタンを押す前に、点滅する光が今回はやたらと早く途切れた。

これは運命的に切れたのか、故意的に切れたのか

とにかく携帯の電源を切った。
ちゃんと仕事をしよう。

客は来ないけど、俺は遊びに来てるんじゃないんだ。



【Shout at the devil】

奴は独りぼっちで夜に叫ぶ狼のようだ。
ステージに残った血痕の様にお前の目に涙を誘う。
嘘の誘惑に唆されてお前の背中にナイフを突き立てる。

奴は怒りの塊。ナイフに立ち向かう刄のようだ。

嗚呼、俺達は皆孤独なんだ
頭がぐるぐる回ってる
しかし枯れてしまうような季節でも
俺達は立ち上がり攻撃を続ける
強くなければ、笑わなければ、そして


叫べ

悪魔に向かって叫ばなければ






序章7



21:00

バイトから帰宅して、携帯の電源を入れた。
友人からのメールが一件。

『お疲れー。お前今日8時上がり?帰ってんなら8chの10時からのドラマ録画しといて。
ビデオはデッキの中に入ってるの使え。したらば宜しく』

はいはいわかりました。

返信を済ませてから、デッキの中のビデオを確認する。
よし。ちゃんと入ってる。先週の回の続きで録画してくれってのはわかってるから、残量も確かめたけど余裕だった。
10時になるのを待つのも面倒だから予約して、俺は晩飯を食う。
オーナーが居れば飯に連れていってくれるけど、今日は何かライブだとかって店に来なかったし。
今晩は馴れ親しんだコンビニ弁当と、カップ麺。

カップ麺は後回しで、先に弁当をレンジに入れた瞬間、聞き慣れた音が部屋中に響き渡った。

何度携帯をかえようと、着信音はいつも同じ。

俺のテーマソング

リンキンパークのFAINT。


又非通知だ。

ありえない程鳴り続けてる。

うんざりする。
もうやめてくれ。

俺はこのストーカー的嫌がらせに耐えられなかった。

助けてくれ。
もういっそ俺を殺せば良い。


無言で携帯の通話ボタンを押す。


「サトル?」


声を聞いたら拍子抜けした。放心状態。

「サトルでしょ?あ〜も〜何回かけても繋がらないからどうしようかと思ったわ。」

「………。」

「何とか言いなさいよ!!ってえ?サトルでしょ?あらやだ間違えた?」

「…何だよ。」

「何だよじゃないわよ!間違えたかと思ったじゃない。あんた今何処に居るのか知らないけど、今すぐ帰ってきなさい。」

あいつだと思ってた着信からは、意気なり怒鳴りつける母親の声がして、思考が追い付かない。


「…何で俺の番号知ってんの?…つうか何で非通知でかけてくんの?」

「ああ、こないだあんた家に電話したじゃない。番号通知の電話に買い替えてて良かったわ〜」

「だから何で非通知にすんの?紛らわしい…」

「知らないわよそんな事。お父さんが設定したんじゃない?ほら、お仕事でも使うから。ってそんな事はどうでも良いの!早く帰って来なさい!!」

「無理。」

「無理でも何でも帰ってくるの!!」

「親父倒れたとかじゃあるまいし、とにかく今は帰らねぇ」

「…落ち着いて聞くのよ。あんたが仲良くしてたケイ君、交通事故で昨晩亡くなったのよ。」


何言ってんだババァ。


「お通夜は無理でもお葬式くらい来なさい。」


頭の中で、あいつのテーマが鳴り響いてる。





序章8


「わかった。」

母親はまだ何か言っていたけど、一方的に通話を切った。




嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ。

嘘だと言ってくれ。


俺があの夢を見ているうちに、あいつは死んだっていうのか?

こんな事になるなら、ちゃんと話をすればよかった…

こうなってようやく、人は後悔するのか。

駄目だ。まだ理解出来ない。

無意識にあいつの携帯に電話していた。

携帯を耳に押しつける。

プルル

何だまだ繋がるじゃないか。そう思っても、握る手は冷や汗をかいていた。

5回目のコールで、あいつが出たと思った。

俺の母親とぐるになって、「ひっかかってやんの」とか言うと思ったのに

出たのはあいつの母親で

「ごめんなさい、ケイはもう出られないの。貴方はケイのお友達?」

なんて涙声で言うから

これは悪戯じゃない

事実なのだと、わかってしまった。

何だ俺
何から逃げてたんだろう

やけに冴えた頭は、その事実をクリアーに理解しようとはしなかった。

レンジの電子音が、さっきからしつこいくらいに此処から出せと言う。

ピピピ

と、催促されても俺はこの場から1ミリも動く事は出来なかった。

そうだ、俺は弁当を温めていたんだっけ


「サトル君?」

まだ繋がったままの電話越しに名前を呼ばれたような気がしたけれど、俺はちゃんと聞いていなかった。

だから返事もしない。

聞こえなかった。

「サトル君なら聞いて、あのこ、サトル君と連絡が取れないって言ってたわ。もう時間が無いって…自分が死ぬ事を知っていたみたいに…」

もしサトル君に会ったら伝えてほしいって言われてたの。

『夢を見たか?あれは現実であって真実じゃない。逃げるな。受け入れろ。』

私には意味がわからなかったんだけれど、貴方にはわかる?



ゴトリと床に携帯を落としてしまい、通話はプツリと切れしまった。




電話なんて、かけなきゃよかった…
何も聞かなければ、俺が馬鹿だったな、お前がいなくて悲しいよ。なんて少しの苦しみと後悔だけで済んだかもしれないのに

俺は又、恐怖のどん底に突き落とされた。


俺が夢を見る事がわかってた?
自分が死ぬ事を知っていた?
何から逃げるなと、何を受け入れろと言うのだ


これを誰に聞けばいい?


レンジに入れたままの弁当は、もう冷たくなりはじめていた。

無理矢理口に運ぶ。

もう俺は此処にいる必要が無くなってしまった。

荷物は此処に置いたままにして、明日、一度帰ろう。
それで、あいつが本当に死んでしまったのかこの目で確認しなければ。





夢を見た。


昨日の続きで、あいつは何か叫んでた。


『これは現実であって真実じゃない。逃げるな。受け入れろ。』

これはおばさんの伝えた言葉だ。
これには続きがあったらしい。

『お前は罪人じゃない、牢獄にいる必要も無い。目覚めるんだ。それには俺が立ち合ってやるよ。』






序章9



早朝、実家に帰った。

まさか親友の葬式に出席する理由で、此処に帰るとは思いもしなかった。


ケイは本当に死んでいた。


親父に貸りた喪服は、俺には少々小さくて、窮屈に感じる。

葬儀は妙に静かで、皆物静かに涙を流してる。
ただ俺だけに何も聞こえてないのだ。

こんなの俺には受け入れられない。

どれ程怖れていても、親友だった。
俺の人生で、あいつが一番俺に関わってる。


初めて見る死人の顔が、親友だなんて

ありえない。


こんなの俺の人生の予定リストに無い。


明らかに魂の抜け落ちた冷たい身体を目の前にしても、俺にはお前が死んだとは思えないんだ。

お前が骨になった後も、それは変わらない。

だから涙なんて一滴も出なかった。





境目がわからない。

お前から逃げ出す前と、逃げ出した後の

境目を思い出せない。

24時間という一日の境目は眠る前と起きた後。

じゃあ眠らなければ境目は無い。

生まれて死ぬ時が境目なら、その前は?後は?


お前ならそれを知っているのか?


俺が死ぬ事が現実
でも真実じゃない

現実と真実の境目は何だ

お前は俺に何を伝えたかったんだ







葬儀から10日たつ。

居候生活に元通り、普通にバイトにも行って
誰も俺が親友を亡くしたなんて気付かないくらいに、俺は平然で



けれど毎晩同じ夢を見る。

眠った感覚なんて無くて、起きている時こそが夢の中のようだ。

変わった事といえば、あらゆる方向からの視線や気配を感じるようになった事で

自意識過剰なだけだろうが、俺は監視されている気分で気味が悪い。


夢の中でだけは、それから逃れる事が出来た。


覚醒している時のこの気分は、あいつから散々聞かされたモノと一致していた。


ケイの愛読していた詩集。

おばさんに無理を言って詩集を探してもらい、俺も探させてもらったけれど、どうしても見つけられなかった。



思い出したんだ。

あれは本当に詩集なのか、ケイの創りだしたホラなのかはわからないけれど。


あいつは俺に言い聞かせるように、喋ってた気がする。




人間は監視されている。

神とは監察官。

此処は地上という名の牢獄

人々は皆重罪人なのだ。


と。


『格好良くねぇ?』

と。







これに気付いてしまってから、夢を見なくなる。


境目の無い時間だけがだらだら流れるだけで、俺はもうずっと眠っているのか、起きているのかさえわからない。

自分の心音を確かめる。

それだけじゃ足りずに

死というリアルだけを追って、お前に殺される夢を見ようと何度も藻掻いた。







序章10




いつも通り

朝、起きると友人はもう仕事で居なくて

俺もバイトに出掛ける


そんな日常生活。


眠っている感覚が無いせいで、睡眠薬の種類も、量も増えた。

休みの日に、薬を飲みすぎたのか、死んだように眠る俺を見て驚いた友人は、ハッと覚醒した俺に真顔でこう証言した。

叩き起こそうとしたのに起きないから本当に死んじまったのかと思った。

それでその後無理矢理行かされた病院で、うつですねとか言いやがった医者にも「違います」と答えてやる。

なめてんのかお前

夢だからってつまんねー冗談言うな。


精神科に行かされそうになったけれど、俺は断固拒否して逃げ帰った。

何もかもわかったような面しやがって、可哀想な目で俺を見るな


病院からの帰り道に立ち寄った街中

視線は俺の内側を抉る。


恐くて、怖くて、無我夢中で走った


これは夢だ。

夢の中の世界だ。

本当はあいつも死んじゃいない。


目覚める事が出来たら

「変な夢見た」とか言ってあいつに話そう。


SHOUT AT THE DEVIL

うんざりしたあの曲を、何度でも聴いてやるよ。



俺は俺の夢に住む悪魔に向かって叫んでやる



強くなければ

笑わなければ

そして


悪魔に向かって叫ばなければ


お前のテーマが頭の中でぐるぐる回る。






俺は向かってくるトラックに突っ込んでった。
















罪人はその意識をもたず、新しい罪を重ね続ける。


何度でも繰り返され、閉鎖された地上では秩序が生まれ


踏み躙られ


それは又新しい罪となる。




存在を与えよう


何度でもやり直せる


そして何度でも繰り返せば良い。







―死は終りではない―





死は目覚め


死は始まり


死は永遠








夢をみよう




何度でも





此処が牢獄と気付くその日まで・・・。




















「ったく、無茶してんじゃねーよ」


目覚めたら、呆れた面で俺を見る親友の姿があった。





【OBSERVER】第二幕へ續